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2006/04/16

画文

画文集が好きだ。 これはもう、妹尾河童さんに刷り込まれたとしかいいようが無い。 昭和58年('83年:当時中学生)初刷の新潮文庫の『河童が覗いたヨーロッパ』 のカバーはボロボロで、舐(ねぶ)るように読んだ小口は真っ黒だ。 硬質美術方面への興味一杯だった自分には、こんなにもフリーハンドなのに精密ながら抜けているようなイラスト、超日本人的な視点で味のある日本語を良い感じに手書きした本があったのかという衝撃を受けたのだ。 ウチの家族は自分を除いてみな字が上手く(祖母は書道の先生)、その劣等感(コムプレックス)から小学校生活の楽しい行事を振り返る卒業文集に、『私は字が汚い』という題で"生まれて御免なさい的"な文章を載せたくらいだ。 これまで読んだことがない、著者本人の生の"字"を地文にしての画文集だ。 高校入学までに、ほぼ河童さんの字(止め、払いなど)を手本に今の自分の文字が完成した。 幼少期から安野光雅画伯の絵の影響で欧羅巴の風景に馴染んでいたのも大きいから、『河童が覗いたヨーロッパ』というまるで異国の考現学の魅力に惹きこまれたのだろう。 今でもページを繰ると舐るように読んでしまう。 画文集の読み方の定型なのだろう。 以降、河童教の宗門に下る。

文春文庫の『河童が覗いた「仕事場」』で、自分の知る・敬愛する著名人の仕事場を覗き見る嗜好は潜在的にあったのだと確信。 『本棚・拝見 ~書斎に見る、知性のプロファイル~』(アスペクト編集部編/ビジネス・アスキー刊)が蔵書にあったのも頷ける。 そんな自分のまさしく欲していた本が発行される。 『書斎曼荼羅 - 本と闘う人々 1』 『2』(東京創元社)だ。 磯田和一氏の、河童さんの確立した俯瞰図とは趣きの異なる、いろんなアングルからの小説家達の書斎の風景に魅了された。 特に1巻は、取材対象となった作家がみな自分のお気に入りだったので、ラフに色彩されたイラストを眺めて至福のときを過ごした。 本文が活字ではあるが、イラストには細かい磯田チェックが本人の字で書き込まれてアクセントになっている。 先年、上田市にある池波正太郎記念館を訪れた際、池波翁の仕事場を再現し隣に彩色画図説明しているコーナーがあり、矯正視力0.8ながら数メートル前から磯田和一氏の絵だ!と叫んで館内に響き同行者に顰蹙を買ったほどだ。 あくまで対象のディテールに引きずられながらの下手ウマ絵はクセになる。

で、そんな長い前フリを置いておいて、モリナガ・ヨウ氏である。 冬の終わりからプラモデルへの興味が再燃し、「田宮模型歴史研究室」 という素晴らしいサイト(是非とも全てのページを閲覧して欲しい)を発端に、ミリタリー模型に興味が移っての、モリナガ・ヨウ氏である。 ジブリ映画なんか屁であるといわんばかりの『宮崎駿の雑想ノート』 『泥まみれの虎 宮崎駿の妄想ノート』 (これらも漫画ではあるが画文集の範疇に含めたい)を発刊している大日本絵画出版の『35分の1スケールの迷宮物語』に出会ってしまったのだ。 画文集(それも字も絵もいっぱいの)好きでガンプラ以前の似非模型少年であった自分にとって、たまらなく楽しい本なのだ。 月刊モデルグラフィックという雑誌に見開き2ページほどで連載されていたものらしいが、"35分の1"というように戦車模型について絵書かれた本だ。 模型少年モリナガ・ヨウ氏も青年になってからは一旦は模型を卒業しイラストレーターとして活躍していたものの、隔月刊アーマーモデリングに掲載された記事を見て感想・質問の手紙を画文にして送ったところ、モデルグラフィック誌の土居雅博編集長(「田宮模型歴史研究室」に度々登場)から連載依頼がきてさぁ大変。  宮崎駿に命名された編集マン吉祥寺怪人(きっしょうじ かいと:押井守映画『立喰師列伝』にも登場)と、二人三脚で、1/35戦車模型とモリナガ氏自身の両方の埋もれていた歴史を最高の画文で振り返るという、唯一にして無二の本に仕上がっている奇跡の書である。 ・・・そう、僕にとっては。

ながながと熱く語ってしまったが、これほど主観的な思い入れでベストと言い切ってしまえる本は少ない。 ほぼ一ヶ月近くかかって隅から隅まで読了した。 これまで書いた上の文章が鬱陶しい。 ただただ、楽しい本なのだ。 写真は表紙カバー絵だ。

Morinaga

 

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コメント

うわー、興味有り気なのばっか!
特にの宮崎駿モノは欲しいです。鉛筆画好きなもんで。

投稿: SHIN-PON | 2006/04/18 17:21

>SHIN-PONさん
でしょう。宮崎駿の『雑草ノート』は、ヒトコマ鉛筆で主線ひいてから、水彩絵の具で彩色して、次のヒトコマにかかるという達人芸だそうだ。 もちろん『紅の豚』の原型や、実際に今年プラモデル化した多砲戦車などが魅力的。 是非、一冊。

投稿: コタツ | 2006/04/19 06:17

『宮崎駿の雑想ノート』購入したいましたー。
ここへのトラバに失敗したので、コメント。
うん、良き買い物となりました♪
御紹介まことにサンクスでした。

投稿: SHIN-PON | 2006/04/24 17:18

お!買いましたか!情報量が多くて楽しい本です。なによりなにより。
プラモデルにもなった20ページの悪役1号。左上の前方からの絵、左キャタピラ下のところが、紙を貼って修正してあるっしょ。
大判水彩漫画(画文集?)だと細かいところまで楽しめる。

投稿: コタツ | 2006/04/25 06:13

そうそう、まさに読んだ記憶にあるのが「悪役1号」ですヨ!そのときの記憶とちょいと違うなーと思ったら、修正されてたんですね。
修正前は男の子とか女の子は、書き込まれていなかったと思うです。

投稿: SHIN-PON | 2006/04/25 08:29

すごいなー。 「リアルタイムで読んでいた」→「このエントリーがきっかけで、しんちゃんの時間が巻き戻される」→「購入♪」なわけね。
1985年初出っつーと、21年前の記憶が意識上にのぼることなく知らずに深く刻印されていたのね。 サヴァン症候群の「カメラ・アイ」じゃないけど、瑣末な事も結構覚えていたりする"人間"ってやっぱすごいなー。

投稿: コタツ | 2006/04/26 12:44

こないだ写真添付メールが来たけど、伊那の悪友Uがジブリ美術館に家族揃って行ってきたとのこと。 で、ジブリの美術の筆頭である「男鹿和雄画集」を購入し悦に入ってるらしい。(俺はそう好きなワケでもない) 画集がヤツの研究対象である農村・中山間地利用などを刺激してるようでもあるだろうが、「線画」に対する執着がまるでないようで、自分との差異が明確で面白いと思ったよ。

投稿: コタツ | 2006/04/26 12:57

あまりに話題引きずって恐縮ですが、そっか…21年前の記憶なんですね。そう改めていわれると、スゲーな;;
ちなみに、たまたま本屋さんでコタツさんの書込み思い出して、ちらっと覗いたら、この本だけ「こそっ」って目立たない所に挟まって置いてあったわけですよ。
なんか、それもスゲー話しカモ。

投稿: SHIN-PON | 2006/04/26 17:23

あるね、そういう事。 本が呼んでるっていうか、居たっていうか。 何故、今日そこのその本が目に飛び込んできたのか、ってくらい。
そういう時は間違いない。 「嗚呼、買いそびれた」という後悔だけはしたくないもんね。

投稿: コタツ | 2006/04/28 15:29

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